エンプラとは  結晶性と非晶性


1.エンプラの構造上の特徴

 高分子鎖は、構成単位の単分子が最低100以上結合してできている。この高分子鎖の集まりがプラスチックである。エンジニアリングプラスチック(エンプラ)と呼ばれるプラスチックは、過激な雰囲気や用途においても強度・耐熱性・耐薬品性等の特性を保っている。それは、以下のような構造上の特徴に由来している。

*構成する高分子鎖の特徴
  ・分子鎖が長い
  ・分子鎖を構成している分子単位が強固な結合でつながれている
  ・分子鎖の中で、部分的に弱い結合がない
  ・ストレスがよく分散でき、局所的にストレスが集中しない分子構造になっている 等
*高分子鎖の集合状態
  ・近くの高分子鎖と密接に嵌合しており、分子間力や親和力が強く働いている
  ・そのような高分子鎖の数が多く存在し、かつ密集度(密度)も高い
  ・結晶部分が多い、あるいは、異物や欠陥が少ない均一な構造をしている 等

 高分子鎖の集合状態は、高分子鎖が規則正しく配列している状態と高分子が糸玉状になったり絡まったりしている状態の2つ大別することができる。前者は結晶状態、後者は無定形または非晶状態と呼ばれる。結晶状態が存在するプラスチックを結晶性プラスチック、そうでないものを非晶性プラスチックと大別する。ただし結晶性プラスチックといってもすべての部分が結晶状態であるというわけではなく、一般には結晶部分と非晶部分とが混在している。この結晶部分の割合を結晶化度(注1)と呼ぶ値で表す。この結晶化度が高いことが、エンプラとして要請される特性の必要条件の一つにもなっている。また、溶融状態でありながら、ある温度範囲で一定の方向に分子が配列し構造上の異方性を示すことがある。この状態を液晶状態と呼び、このような状態をとるプラスチックを液晶性ポリマーと呼ぶ。図1に、結晶性プラスチック、非晶性プラスチック及び液晶性ポリマーの配向構造モデルを示す。このモデルから、例え結合力の小さい分子間力や水素結合であってもプラスチックになると原子や分子鎖の数が多いため結果として結合力が大きく累積される、また結晶化度が増すと高分子鎖がより密に詰まり単位体積当たりの結合の数が増加して強靱さ・高耐熱性・高耐薬品性等の特徴が発揮される、などを容易に理解することができる。

 注1:結晶化度の定義 (結晶化度)=(結晶領域部分)÷(結晶領域部分と非晶領域部分との和)



2.温度変化に伴うプラスチックの状態変化

 高分子鎖の分子間力や立体構造等の違いで、高分子鎖の集合体(プラスチック)は結晶状態や非結晶状態になる。これらの状態は、加熱・冷却により更に変化する。その様子を図2に示す。
 プラスチックにおいては、高分子鎖がほとんど動かいない状態から動き始めるガラス転移温度というものがある。このガラス転移温度を過ぎると非晶部分の高分子鎖の運動が活発になる。温度上昇とともにプラスチックの剛性は直線的に低下していく。結晶性プラスチックにおいては、温度が上がるとやがて結晶部が溶融していく。この溶融により剛性の低下が急激に起こり、液体と同じような流動状態になる。
 一方、溶融したプラスチックを冷却していくと、分子鎖の動きは少なくなり、結晶性プラスチックでは結晶化、液晶性プラスチックでは液晶化が始まる。特に結晶性プラスチックにおいてこの冷却の仕方(冷却速度)により結晶の状態が異なってくる。その結晶状態は一般に球晶と呼ばれ、急冷したときはその球晶サイズは小さくなり、又徐冷した場合には球晶サイズは大きくなるのが特徴としてあげられる。
 エンプラ材料の特徴の一つとして耐熱性が高いことがあげられるが、図2において以下のように解釈すると理解しやすい。非晶性エンプラではガラス転移点が高くて材料がゴム状態(溶融状態)へ移る温度が高いことが耐熱性を発現するための要件、また結晶性エンプラでは融点が高くて高温でも結晶状態を維持できることが高い耐熱性を発現するための要件(注2)。

 注2: 図2における剛性変化は非晶性プラスチックと結晶性プラスチックの特徴を分かり易すくするためその典型的なパターンを合わせて示したに過ぎず、両者の温度位置関係に意味はない。



3.結晶性プラスチックと非晶性プラスチックの特徴

  工業的に生産されている代表的なエンプラを結晶性および非晶性の面から分類すると図3のようになる。



 一般に、結晶性プラスチックは硬くて剛性があり、非晶性プラスチックは耐衝撃性に優れている。特に前者においては、ガラス繊維、炭素繊維、又は種々のフィラー(粒子等の充填剤・添加剤)等を加えることで材料強度や剛性を顕著に上げる手法が広く採用されている。各エンプラの特徴の概要は、「プラスチックの分類」のタブを参照されたい。


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